ケース(架空設定)

以下のケースは、札幌コミュ研の実践的研究をベースにしていますが、年齢・性別などはすべて架空設定で構成されています。
*札幌コミュ研(札幌コミュニケーション教育研究会)

【ケース1】

ADHD傾向がある子

 2年生男子のA君は、ややADHD傾向があり、落ち着きがなく、暴言や癇癪を起こして友達と喧嘩するので、親や先生からいつも怒られていました。3年生になって担任がかわり、その先生から「お手伝い係になってくれない?」と言われ、よく先生と一緒に職員室に来てプリントを教室に持っていくことが多くなりました。すると他の先生方が「えらいね!」とか「担任の〇〇先生は助かっているよ、きっと!」「『いつも偉いんだ、あの子は!』と担任の先生が言ってたよ」などと間接的に褒められることが多くなり、どんどんやる気が湧いていきました。すると不思議なことに、いつしかA君の対人関係も安定していきました。

お手伝い効果

お手伝いすることで結果的に多くの人から褒められるし、先生と一緒に職員室に行くので、担任が教室を留守にしている間のトラブルもなくったりします。

間接情報効果

直接本人からポジティブな情報を伝えられるより、第3者から伝えられた方が心に温かく響きます。ただし、逆にネガティブな間接情報は心に鋭く刺さります。

【ケース2】

作業が遅く、考え込んでしまう子

4年生のB子さんは、作業に取り掛かるのが遅く、作業が止まって考え込んでしまうことが少なくありません。特に作文では先生から「できるだけたくさん書きなさい」とか「自由に書きなさい」と言われると、何をどれくらい書いていいのかわからなくなってしまいます。それに気付いた先生が、「じゃあ、作文用紙の半分だけでいいよ。余ったらそこにその文章に合う絵を描いてね」と言うと、B子さんは、「本当に半ページだけで良いのですか?」と安心した様子で、作文を書き始めました。その後、B子さんは「先生、半ページからはみ出してしまったけど良いですか?」と少し、困った顔をしながら聞いてきました。すると先生は「もちろん、良いですよ。だんだんたくさん書けるようになってきたね!」と褒めました。B子さんは、いつの間にか1ページ以上の作文を書けるようになっていきました。

半ページ効果

「半ページ以内で書きなさい」と言われると人は義務のように感じ、心が拘束されたり、反発したりしたくなります。すると、とたんにやる気をなくし、「書けない、書きたくない!」という気持ちが湧いてきます。これを心理的リアクタンスと言います。この心理作用を利用し、逆にハードルを低くした上で「~しなさい」というと、それに反発してもっとしたくなったりします。これを札幌コミュ研では、わかりやすく「半ページ効果」と名付けました。

変容度効果

学習指導要領では、児童がその教科・単元で到達したかを評価規準(最終的に到達すべき範囲と内容)と評価基準(範囲や内容についてどれくらい到達しているか)で示されています。しかし、学力の伸びを見る時、教師や親は、「どれくらい伸びたの?」を知る、変容度評価の視点が大切になってきます。例えば、いつもは40点くらいしか取れてない子が、75点取れたなら、例え合格点の80点を取れてなくても、その伸びを大いに褒めたり、認めたりすることが大事です。そうすることで(変容度効果)、子どもは自身の伸びを自覚し、もっと頑張ってみようとモチベーションが上がっていくはずです

【ケース3】

対人関係が危うくなっている子

 5年生のC君は、勉強はできるのですが、人と話していていると「でもね!」とか「違うよ!」と話をさえぎり、否定の言葉から自説を語り始めます。そのため、みんなから「あまのじゃく君」とか「でもね君」とか呼ばれています。ある日Ⅽ君が、担任の先生のところに来て「なんかクラスの友達は、僕を敬遠している気がする」と相談しました。先生は、「C君はそう感じているんだね。じゃあ、どうすれば良い?」と逆に問い返しました。C君は、しばらく考え込み「間違っているのは相手だし…それを認めるのは悔しいし…。まずは、相手の話を最後まで聞くことかなぁ」と答えました。担任の先生は「そうだね。まずは頭から相手を否定せず、『そうだね、そうなんだ、そういう考えもあるかもね』と最後まで相手の話をしっかり聞くことから始めるといいかもね。「でも」以外に良い言葉はないかな?」とまた聞きました。「でもより、ただ…の方が柔らかい言葉かもしれません」その後、Ⅽ君とクラスの子たちとの関係は少しずつ改善していきました。

そうだね効果

 まずは、相手の考えに対して「そうだね、そういう考え方もあるね」と相手の感情を刺激せず、考え方自体を否定しないことで、逆に自分の考えも相手に受け入れてもらいやすくなります。そうすることで、互いの自尊感情や自己肯定感は高まります。

ワンダウンポジション効果

担任と児童、親と子の場合は、相手が感情的になったとしても、立場の上のものが、逆に心の目線を低くします。「できなかったことがすごく悔しかったのね」「仲間に入れてもらえなかったから腹が立って、叩いてしまったんだね」と例え共感できないことであったとしても、「子供がしてしまったという事実は理解した、または正直に話してくれたことは嬉しかった」気持ちを伝え合うことはできるでしょう。これをワンダウンポジション効果と言います。このように立場の上の者が、ワンダウンポジションを取ることで、感情のエスカレーション現象はかなり防げるはずです。

感情のエスカレーション現象

【売り言葉に買い言葉】は、よく聞かれる言葉ですが、互いに一歩も引かないと、どんどんお互いの感情はエスカレートしていきます。特に、表情や感情が伝わりにくい、メールのやり取りでは、この現象が起きやすいと言われています。

【ケース4】

感情がコントロールできない子

 3年生のDさんは、時々感情爆発します。クラスの子は、「先生、今日はDさん、小噴火しそうだから気をつけてね」と言いに来ます。クラスの子は、朝教室に入ってきた時にDさんの表情、特に目つきによって、「小噴火・中噴火・大噴火」と判断しているようで、たとえ大噴火しても周りの子は落ち着いて対処している様子。感情がコントロールできない子は、クラスに少なからずいます。感情爆発した時、担任や親はどのように対処したらよいのでしょうか?
感情爆発する児童の場合、まずは、器質的なものからリサーチしていきます。
【偏った食事をしていないか】中でも、カルシウムや鉄分などの不足は、イライラ感や落ち着きのなさ、やる気のなさなどを引き起こす原因だと言われています。また、ストレスや悲しみを感じているときに、高カロリーの食べ物や甘いものを過剰に摂取してしまうこともあります。これは、食べることで、一時的に気分が良くなるからです。そのため近年は、精神医学においても薬や心理療法のほかに食事療法が注目されています。食事が規則正しくなされているか?好き嫌いが多くなっていないか?などに配慮することはとても大事です。
もし、以上のことが満たされている場合は、「幼少期から感情や意志を抑圧されてこなかったか?」「乳幼児期に感情を否定された経験が多くなかったか?」「したいことをさせてもらないことが多くなかったか?」等を振り返ります。感情が抑圧されたり、否定されたりした場合、子供と親・教師の関係は、悪意の返報性の循環に陥ることが少なくありません。危険なことでない限り【子どもができないこと、子どもにさせたくないこと】には、いったん目をつぶり、【子どもができること、子どもがしたいこと】に目を向けていくことが大事です。子どもができなくて泣いたときには、手を子どもに握ってもらいながら「ゆっくり話を聞いてあげる」「担任や親がまずはやって見せる」ことで感情が落ち着くこともあるでしょう。また、感情爆発が起きた時に座る場所を普段からあらかじめ決めておき、しばらく様子をみることも必要です。私が派遣で行った、ニュージーランドのクライストチャーチやアメリカのリトルロック市の学校には、カームダウンスポットがありました。感情爆発した子はそこで泣きじゃくったり、癇癪起こしたりをしていても、放っておけば約10分ほどで感情が落ち着きを見せていました。感情爆発が起きている時は、いくら叱ってもなだめても耳にシャッターが下りているので、子どもの心には届きません。

食事療法

近年、感情コントロールが上手くできない子が増えているようです。その要因の一つとして考えられるようになってきたのが、脳内物質のセロトニン・ドーパミン・GABAなどの分泌異常です。脳の栄養不足と表現している小児科医もいます。そこで改めて今、子供の食事が見直されています。脳に栄養を与えるためには、タンパク質、ビタミンB群、マグネシウム、鉄を多く含む食品(魚、肉、卵、豆類、緑黄色野菜など)をバランスよく摂取することが重要です。一般的に子供の癇癪は、2歳~4歳が最も多く5歳を過ぎると落ち着いてくる傾向があるといわれていますが、もし、小学生に以降になって子供に癇癪や強いイライラが増えてきたら、まずは食事内容を見直していく必要があるかもしれません。

好意の返報性効果

相手に好意を示されるとお返しをしたくなる心理のことです。やんちゃな子や落ち着きのない子に対して好意をもって接すると子どもにはちゃんとそれが伝わって好意で返してきます。その反対にいくら「あなたのことを思っていっているのよ」と言っても心の中が違っていれば、子どもは悪意で返してくるかもしれません。(悪意の返報性)

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手つなぎ効果

手を優しく握って説諭するのと、頭ごなしに説教するのでは、子どもの反応は全然違います。なぜなら、話を聞く担任や親は、子どもに自分の手(または指)を握ってもらうということは、子どもの心の波長に合わせるということです。手を握ってもらうと、相互の感情を伝え合いながらコミュニケーションをとっていくことになるので、感情の落ち着きもその分早くなるという訳です。

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カームダウンスポット

現代の子どもたちは、一昔前の子どもよりも過剰な情報やストレスにさらされています。ちょっとしたことで、怒りを爆発したり、ケンカしたりする子も少なくありません。感情爆発している間は、親や先生の言葉は届きません。子供の耳と心にシャッターが降りてしまうからです。そこで、あらかじめ決めておいたカームダウンスポットで、気持ちを落ち着かせるといいでしょう。「ここは特別な場所・安全な場所」と認識できれば、大抵は10分ほどで感情の高ぶりは収まってきます。

【ケース5】

学習に対して自信を無くし、
自己肯定感が低下している子

 1、2年生の頃までは、授業中「ハイ!ハイ!ハイ!」と一生懸命手を挙げて発表していた子たちも、3年生くらいから徐々に発言しない子が増えていく傾向があります。これは、3年生頃から学習内容のレベルが上がるため、学習につまずいたり、理解不足のために自分の考えを自信をもって発言できなかったりすることが要因の一つだと言われています。このように学習に対する積極性が失われると、どんどん自己肯定感や自己評価が低下していきます。そんな時こそ、教師や親は子供の出来ていないところより、出来ているところに目を向ける必要があります。「話すのは苦手なようだけど、ノートはしっかり取れているぞ!」「図を描いて考えているのは素晴らしい!」と、子どもの良さを多面的に見ていく必要があります。また、「おはよう!昨日の発言、すごくよかったよ!」「お帰りなさい、明日は絵の仕上げだね。どんな絵になるか楽しみにしているよ」と、あいさつに一言付け加えることで、子どものモチベーションを高めるだけではなく、良好な関係性を築いていくことも繋がっていきます。

多面的物差し効果

子どもと接する時、たくさんの物差しで見取れる親や先生は、子どもの良さをたくさん発見できるでしょう。言い換えると、子どもが活躍できたり、輝いたりできる環境を作れば作るほど、必然的に多面的な物差しは増えていきます。「計算スピードは速くないけど正解率高いわ」「スポーツは苦手にしているけど、この子の絵は素晴らしいな」「ノートは雑だけど、音読は素晴らしいわ」と、子どもの良さをたくさん発見できることは、親や先生にとって楽しいことではないでしょうか?

あいさつプラスα効果

朝、校門の前に立っていると、子どもは色々な表情で登校してきます。明るく元気な様子な子も多いのですが、【うつむき加減な子・無表情な子・何かぷんぷんしている子】なども少なからずいます。そんな時に「おはよう。素敵な帽子被っているね」とか「おはよう!2時間目は、〇〇さんの好きな合唱だよ!」などと伝えると、「この帽子、昨日買ってもらったんだ!」「わたし、合唱大好き!」と笑顔をみせてくれます。挨拶が単なる儀礼的なものにせず、その子の心に届く言葉を一つ添えてみてはどうでしょう。

Let’s do it.

良く知られた金言に「ライオンに野菜を与えたり、うさぎに肉を与えたりしてはいけない」があります。子供も同じで、一人一人みな個性・能力が違います。ですから、兄や姉がきちんとできていたからと言って、弟や妹が同じようにできるとは限らないのです。